しやいとブログ

つれづれなる薬剤師のブログ

術後PCA

PCAはpatient-controlled analgesiaの略で、自己調節鎮痛法です。患者の判断でボタンを押すことにより鎮痛薬が投与することができる方法です。術後の鎮痛手段のひとつとして用いられます。

原理

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MEAC(maximum effective analgesic concentration)は痛みを感じない鎮痛薬の濃度です。オピオイドのMEACは個人差が大きく、モルヒネのMEACが人により10倍異なるといった報告もあります[Ann Surg 195: 700-705, 1982]。

MEACを下回った場合、痛みを感じるので、ボタンを押してもらいます。それを繰り返し、MEAC以上の濃度を保つことで鎮痛を図ることができるのがPCAです。

鎮痛薬の濃度がMEAC以上を保つことができていれば痛みは感じないので、ボタンを押す必要はありません。PCAを使用していてもボタンを1回も押していない人を見たことがあるのではないでしょうか。それほど大きな個人差が現れます。

PCAにはLOT(lock out time)が設定されています。ボタンを押しても鎮痛薬が追加投与されない期間です。鎮痛薬の過量投与を防ぐためです。鎮痛薬の効果発現時間前に追加投与されてしまうと過量投与のリスクがあります。また、LOTを長い時間に設定すると、痛みがあるのに追加投与ができないので、QOLを損ないます。通常、LOTは鎮痛薬の効果発現時間に近い時間が設定されます。フェンタニルの場合は5-10分に設定されるのではないでしょうか。PCEAだと局所麻酔薬が併用されるので、オピオイド単独のiv-PCAよりも長めに設定されることが多いと思います。レボブピバカインの場合は、作用発現まで15-20分を要するので[日臨麻会誌Vol.27 No.5 445-455,2007]、レボブピバカイン含有のPCEAの場合はLOTは15-20分に設定することがよいと考えられます。

また、PCAの投与方法として、静脈内PCA(iv-PCA)と硬膜外PCA(PCEA)がよく使用されます。

静脈内PCA:抗凝固薬を使用していても使用しやすい

      PCEAと比較し全身性の副作用が出やすい

硬膜外PCA:抗凝固薬を使用していると使用しづらい

      体動時の鎮痛について静脈内PCAよりも効果がある

      局所麻酔薬とオピオイドを併用することがある

上記の他にもそれぞれに特徴はありますが、大きな特徴をまとめてみました。

一度、整形外科の術後PCEAで、エノキサパリンを1日だけ休薬している人を見かけました。その日は硬膜外カテーテル抜去日でした。抗凝固薬を用いる場合はiv-PCAを使用することが多いですが、PCEAを使用する場合は注意が必要です。

副作用としては、

①呼吸抑制

②嘔気・嘔吐

③便秘

④掻痒感

尿閉

が挙がります。オピオイドの作用として有名なものばかりです。PCEAの場合は、局所麻酔薬を併用するので、上記に局所麻酔薬の副作用が加わります。

呼吸抑制は一番問題となる副作用ですが、頻度は高くありません。呼吸数がかなり低下した場合にはナロキソンを考慮したほうがいいかもしれません。

嘔気・嘔吐については予防投与として、ドロペリドールがPCA点滴内に混合されることが多いのではないでしょうか。ドロペリドールは掻痒感に対しても効果があると言われています。ドパミン受容体遮断薬なので、錐体外路症状に注意が必要です。若年者では錐体外路症状が出やすいので、若年者にドロペリドールを使用していない施設もあります[麻酔 57:S250-S255,2008.]。

 便秘については手術による影響かPCAによる影響か判断が難しいかもしれません。PCAを使用する患者は便秘傾向になりやすいことは覚えておきましょう。

化学療法と血栓症

先日、医師からこんな問い合わせがきました。

血栓症でアピキサバンを内服している患者に化学療法を施行しようと思うんだけど、どんな影響があるのか」。

尿路上皮がんでMVAC導入を検討している患者。年齢は比較的若め。常用薬はアピキサバンと便秘薬などを使用していました。抗がん剤血栓症の関連については勉強したことがありませんでしたので調べてみました。

※MVAC(メトトレキサート+ビンブラスチン+ドキソルビシン+シスプラチン)

 

①がん患者では、血栓症の発症リスクが約4倍、がん患者で化学療法施行中の患者では、約7倍の血栓症のリスクがある[Arch Intern Med. 2000 Mar 27;160(6):809-15.]。

②シスプラチン投与により、血栓症のリスクが上昇するという比較試験はいくつかある。

③添付文書には、重大な副作用として、静脈血栓塞栓症の記載がある[ランダ注®添付文書]。

④シスプラチンの用量が30mg/m2/weekを超える患者で静脈血栓症のリスクが増加した(RR:2.71)というシステマティックレビューの報告もある[J Clin Oncol. 2012 Dec 10;30(35):4416-26.]。

⑤MVACにより、静脈血栓塞栓症のリスクが上昇したという比較試験の結果がある[Cancer. 2004 Apr 15;100(8):1639-45.]。

静脈血栓塞栓症の既往がある尿路上皮癌の再発症例にはシスプラチンの使用を控え、パクリタキセル+ゲムシタビンによる治療を行っている施設もある[西日泌尿. 80:527~531. 2018]。

 

シスプラチンによる血栓症のリスク上昇については有名な話であることを知りました。最近、前立腺がんの定期検査でCT上血栓が認められ緊急入院になった患者や、入院してヘパリンを持続投与しているがん既往歴のある患者と接することがあり、悪性腫瘍患者には血栓症の可能性を考慮するべきなんだと思うようになりました。

メルファラン大量投与時のクライオセラピー

多発性骨髄腫の造血幹細胞自家移植前にメルファラン大量療法が用いられます。投与量が2日で200mg/m2ですので、他のメルファラン含有レジメンと比較すると多量の抗がん剤が投与されることになります。そうなると問題となってくるのが、副作用です。

添付文書に掲載されている国内phase IIでの有害事象及び副作用の発現頻度では、

下痢  :96.2%

口内炎 :80.8%

悪心嘔吐:73.1%

上記のように粘膜系の副作用の発現が必発です。

当院では、上記の対策としてクライオセラピーを実施しています。

 

クライオセラピーにより副作用を軽減できるという報告はいくつかあり、Bone Marrow Transplant. 2006 Jun;37(11):1031-5.などがあります。この報告では、投与30分前から開始し、投与終了6時間後までクライオセラピーを実施しています。

この報告の後に、クライオセラピーの実施時間を投与15分前から開始し、投与終了後30分後まで継続と先の報告よりも実施時間を短縮しましたが、粘膜炎の発生率と重症度に影響を与えなかったという報告が出ました(Bone Marrow Transplantation (2006) 38, 637–638)。これはメルファランの薬物動態に基づいて設計された方法です。

 

メルファラン大量療法を受ける患者さんにはクライオセラピーを実施することにより副作用の重篤化を抑制できることを伝えてみるとよいでしょう。

 

抗がん剤の肝障害・腎障害者の用量調節

 腎障害や肝障害がある患者の抗がん剤投与量の監査について不安な人も多いのではないでしょうか。

 添付文書に減量基準が明確に記載されていれば、それを基に提案することができますが、記載されていない薬剤も多いです。今回は、そのような場合に参考になる資料を掲載しましたので、よろしければ確認してみてください。

 

①適正使用ガイド

 TS-1®やレブラミド®など、腎障害時の用量調節が記載されています。すべての抗がん剤について作成されているわけではないですが、作成されている薬剤については目を通しましょう。

抗がん剤関連書籍

 #1がん化学療法レジメンハンドブック(最新は第6版)

 #2がん化学療法レジメン管理マニュアル(最新は第3版)

 #3ハイリスクがん患者の化学療法ナビゲーター(最新は第2版)

 #4スペシャルポピュレーションへの抗がん剤用量調節ハンドブック(現在は絶版)

 上記などの書籍が大変分かりやすいです。レジメンハンドブックやレジメン管理マニュアルは日常業務で活躍することは間違いないでしょう。レジメンハンドブックは掲載レジメン数が豊富であり、レジメン管理マニュアルは副作用の観点において大変分かりやすい内容となっています。レジメン管理マニュアルは掲載レジメン数が少ないです。

 化学療法ナビゲーターと用量調節ハンドブックは肝障害・腎障害時などの用量調節について分かりやすくまとめられています。用量調節ハンドブックは現在絶版なので、古本屋か図書館を利用しましょう。

臨床試験の情報

 薬剤の承認の際に用いられた論文や、該当レジメンを使用した比較試験などの論文を確認することも重要です。例として、シスプラチンは臨床試験やレジメンによっては同じ腎機能であっても50%減量をしていたり、25%減量していることもあります。

 また、白血球減少や血小板減少時の用量調節も掲載されているので、何度も目にするレジメンについては一読する価値はあると思います。

④海外の添付文書

私は主に米国の添付文書を確認しています。エトポシドやパクリタキセル等、日本の添付文書よりも肝障害・腎障害についての用量調節について掲載されているものもありますので、ぜひご確認を。探すとしたら、「薬品名 package insert」で検索して探すと、てっとり早いです。

⑤海外の書籍・論文

 ②で挙げた書籍の引用文献として何度も登場する論文については目を通してみるのもよいかもしれません。

 著名なものとしては、UP TO DATE、肝障害時の用量調節(Semin Oncol, 33:50-67, 2006)や腎障害時の用量調節(Cancer Treatment Reviews (1995) 21, 33-64)などがあります。「Drug Prescribing Renal Failure」については私はまだ確認できておらず、今後目を通してみる予定です。

 施設によっては⑤については確認することは難しいかもしれません。

 

 添付文書や適正使用ガイド以外の情報については参考情報として提案の際に使用してみるとよいかもしれません。また、用量調節について掲載されている論文等を基に提案する際には、その論文の試験内容を吟味したうえで提案することが重要です。

薬剤師の仕事時間

病院って朝から夕方まで開いているけど、薬剤師はどれくらいの時間職場にいると思いますか。私は病院勤務ですので、私の勤めている病院の話になります。

 

始業時間はその日に割り当てられた仕事にもよりますがだいたい朝8時くらいに出勤しています。更衣室で着替えたり、準備をして8時30分から業務開始です。

 

就業時刻は17時ですが、職場には19時から20時くらいまでいる人もいます。私の話ですが、遅い時で終電で帰ったこともあります。次の日の準備や勉強しなければならないことがあると就業時間後に時間を確保するしかないので帰る時間が遅くなります。また、急な仕事が入って遅くなることがあります。

夕方や夜から予定がある時はその日は早めに仕事が終わるように前日から調整を始めたり、有給や、休みの希望を出して対応しています。医師や看護師から問い合わせがあると時間がかかることもあるので、大事な用事だと休みの希望で対応してます。

あとは、入院時の持参薬が多かったり、一包化されていると薬剤の鑑別に時間がかかって帰りの時間が遅くなったりします。

 

病棟担当の薬剤師でなければ、終業時刻ぴったりもしくはその後30分以内くらいには帰れると思います。

ではまた。

 

疑義照会(ニューキノロン系抗生剤+マグネシウム、アルミニウム、鉄を含む薬剤)

クラビット®(レボフロキサシン)の薬の名前を聞いたことがあるひといるのではないでしょうか。大変使いやすい抗生剤ですので、実際に飲んだことのあるひとが多いかもしれません。

飲み合わせに気を付けたことはありますか。金属との相性がよくないです。

レボフロキサシンの体内薬物量(AUC)の比較

レボフロキサシンのみ 100%

レボフロキサシンと酸化マグネシウム 78%

レボフロキサシンと水酸化アルミニウム 56%

レボフロキサシンと硫酸鉄 81%

レボフロキサシンと炭酸カルシウム 97%

飲んだ後にレボフロキサシンの濃度が

一番高い時(Cmax)の比較(濃度比)

レボフロキサシンのみ 100%

レボフロキサシンと酸化マグネシウム 62%

レボフロキサシンと水酸化アルミニウム 35%

レボフロキサシンと硫酸鉄 55%

レボフロキサシンと炭酸カルシウム 77%

クラビット錠インタビューフォーム 参照

 

マグネシウムアルミニウムと同時に内服すると、これだけレボフロキサシンの薬物量が低下してしまうことが知られています。炭酸カルシウムについてもやや低下しているように見えますが、統計学的には差がないとされているため、カルシウムとはあまり影響はなさそうです。

マグネシウムと名前がある薬を飲んでいるんですけど、飲まないほうがいいですか?そんなことはないです。レボフロキサシンを飲んだ後に酸化マグネシウム2時間以上ずらして飲んでいただければ相互作用による影響を小さくすることができます。

※レボフロキサシンを飲むのが先です。(添付文書より)

個人的に、もともと別の病院から出されていた金属の薬を飲んでいて、抗生剤が新しく追加されて発覚することが多いです。薬局や病院へお薬手帳の持参または自分で飲んでいる薬を伝えられるようにしておくとよいと思います。

また、市販の便秘薬や胃薬の中にはお通じの改善や胃の症状を和らげるためにマグネシウムやアルミニウムを含んでいる薬もあります。鉄を補うサプリメントとの飲み合わせも気を付けなければなりません。

レボフロキサシンはニューキノロン系という種類の抗生剤ですので、同じ種類の他の抗生剤でも金属との相性はよくないです。薬剤師に確認してみましょう。

抗生剤アレルギー

お薬にアレルギーを持つ方は結構いらっしゃいます。

 

貼付剤によるかぶれから、ある薬剤を摂取すると嘔吐や発疹が現れる方がいます。

よく見るのが抗生剤アレルギー。

ペニシリンも多いですが、この前はセフェム系アレルギー(セフォチアムで発疹)の方がいらっしゃいました。

 

Rp1) フルマリン(1) 1g + NS(100) 1日2回 

 

フルマリン(フロモキセフ)はセフォチアムと構造が非常によく似ています。酸素原子と硫黄原子という元素上の違いはありますが、どちらも16族元素であり、同じような性質を持ちます。

添付文書上も原則禁忌ですので、抗生剤変更を提案してみたら削除となりました。

フルマリンはブドウ球菌などのグラム陽性菌の他、大腸菌やクレブシエラなどグラム陰性菌にも効果のある薬剤です。抗生剤の処方目的、対象菌を確認しないと代替薬が選べません。

難しいです。