しやいとブログ

つれづれなる薬剤師のブログ

抗がん剤の腎用量調節の考え方(例:シスプラチン)

※あくまで私見ですので、この考え方が世間一般とは限りません。

 

私が腎機能障害のある化学療法患者の投与量を確認するときに用いている考え方です。記載がないCCrはすべてmL/min、sCrはmg/dLが単位です。

 

①レジメンの基となっている試験を確認する

非常に重要です。患者に実施されるレジメンのinclusion criteriaとexclusion criteriaを確認します。院内のレジメン申請書に記載されているレジメン申請の根拠となる文献を確認できればよいですが、レジメン申請書を簡単に確認できない施設(私の勤め先)の場合は、そのレジメンの根拠となっていそうな文献をPub Medで抽出し、内容を把握します。ガイドライン等を確認すれば、引用文献として紹介されている場合が多いので、必ず確認します。

例)オビヌツズマブ(ガザイバ®)

GADLIN study(リツキシマブ抵抗性の非ホジキンリンパ腫に対するオビヌツズマブ+ベンダムスチンとベンダムスチン単剤の比較試験)

 exclusion criteria:CCr<40

 [Lancet Oncol. 2016 Aug;17(8):1081-1093. ]

GB(オビヌツズマブ+ベンダムスチン)レジメンの場合、CCr≧40mL/minの場合は、100%投与量で実施できることが確認できます。

 

レジメンや試験によって腎機能による用量調節が異なる場合があります。

例)シスプラチン(ランダ®)

1. ESHAP

 inclusion criteria:正常な腎機能を有する患者

 腎機能障害が発現した場合の減量基準

 1.5≦sCr≦2.0 シスプラチン25%減量

 2.1≦sCr≦3.0 シスプラチン50%減量

 sCr>3.0   シスプラチン投与なし

 [J Clin Oncol. 1994 Jun;12(6):1169-76. ]

2. R-ESHAP(ESHAPとR-ESHAPの比較試験)

 inclusion criteria:CCr≧60

 Grade2の腎毒性(sCr>ULNx1.5-3)の場合、Grade1に改善するまでシスプラチン投与は控え(withheld)、その後25%減量

 [Clin Lymphoma Myeloma. 2007 May;7(6):406-12. ]

3. DCF(食道がん術前化学療法)

 50≦Ccr<60      20%減量

 40≦Ccr<50      40%減量

 Ccr<40        投与中止

 [Cancer Sci. 2013 Nov;104(11):1455-60. ]

4. GCGCとMVACの比較試験)

 inclusion criteria:CCr≧60

  [J Clin Oncol. 2000 Sep;18(17):3068-77.]

上記のように、レジメンが異なると、減量する基準も異なります。確立されたレジメンの患者条件を確認しておくことは重要です。

ESHAPのように、同一レジメンでも試験によっては、減量内容が異なる場合もあります。また、GCのように、論文を確認しただけでは、腎機能障害が発現した場合の対応について不明であるレジメンもあります。

 

②腎機能のよる減量指標について資料を確認する

原著論文を確認するだけで、減量基準を把握できればよいですが、上記のGCのように、腎機能低下患者への減量基準が不明な場合もあります。そのようなときは、腎機能低下患者に対する投与量について記載のある文献を確認します。

例)シスプラチン

Kintzel[Cancer Treat Rev 1995; 21:33.]

 46≦Ccr≦60      25%減量

 30≦Ccr≦45      50%減量

 Ccr<30       他剤を考慮

Aronoff[Drug Prescribing in Renal Failure: Dosing Guidelines for Adults and Children, 5th ed]

 10≦Ccr≦50      25%減量

 Ccr<10       50%減量

上記2つの資料で紹介されている減量基準が大変有名です。多くの2次資料で引用文献としてみる機会が多いです。両者の減量基準についてはUP TO DATEに記載されています。

日本のガイドラインでは、がん薬物療法時の腎障害ガイドライン2016が有名でしょうか。日本腎臓病薬物療法学会の提案する減量が記載されており、Kintzelの減量基準と似ていますが、CCr<30mL/minの場合の投与量も記載されています。他の成書も似たような減量が多いです。GCの場合は、成書を基に投与量を相談しています。

 

腎機能低下患者(CCr=約45)に高用量MTXを投与する場面に出会いました。投与量が100%で処方されていました。減量するか確認したところ、「CCr<50mL/minなので、減量を考慮します」と回答がありました。成書では、CCr<60で減量基準が紹介されていますが[がん薬物療法時の腎障害ガイドライン2016]、医師からの回答はCCr<50mL/minでした。そのレジメンの基となった文献を何本か確認したところ、inclusion criteriaがsCr<1.5mg/dLもしくはCCr>50mL/min/1.73m2[Blood. 2015 Feb 26;125(9):1403-10. ][J Clin Oncol. 2013 Nov 1;31(31):3971-9. ]や、exclusion criteriaがCCr<50mL/min[Br J Haematol. 2017 Oct;179(2):246-255.]でした。その症例の場合は、1コース目はMTXは減量して投与、2コース目以降の投与量は、MTX血中濃度を確認して判断することになりました。

 

本患者に100%投与量で投与できるかの判断基準はsCr<1.5mg/dL、CCr≧50mL/min/1.73m2、CCr≧50mL/minでした。これは腎機能低下患者に対する減量基準を紹介している成書だけでは確認できません。やはり原著論文を確認しておくことが大切であることを改めて確認した症例でした。