マクロライド系アレルギーに対するタクロリムス
タクロリムスはマクロライド系抗生物質である。どこかが耳にしたことがあるかもしれません。
右:タクロリムス 左:クラリスロマイシン
[Wikipediaより引用]
どちらも、ラクトン環を含む化合物です。
マクロライド系アレルギーの患者にタクロリムスを投与した報告は2021年4月ではPubMedで2例ありました。医中誌には掲載はありませんでした。
1例目:Bone Marrow Transplantation 2000;25:907-908
シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、バンコマイシン、アロプリノールで皮疹の既往がある患者に造血幹細胞移植GVHD予防としてタクロリムスが投与された1例です。
当時はクラリスロマイシンとタクロリムスの交差反応の報告はなく、慎重投与した例です。投与3日後に皮疹などの症状が出現したため、タクロリムスの投与は中止し、シクロスポリンに変更されました。
2例目:Am Transplant 2018;18:1831-1832
マクロライド系アレルギー(エリスロマイシン4人、クラリスロマイシン2人、アジスロマイシン2人)の患者8人にタクロリムスの皮膚テスト、経口テストの結果についての報告です。8人ともタクロリムスによるアレルギーは起こりませんでした。うち6人は腎移植を実施し、タクロリムスを投与しましたが、アレルギー反応は起きていません。
マクロライド系アレルギーがあるとタクロリムス投与時にアレルギー反応が起こりやすいとは言い切れませんが、投与する場合は、慎重に経過をみていく必要があります。
抗がん剤の腎用量調節の考え方(例:シスプラチン)
※あくまで私見ですので、この考え方が世間一般とは限りません。
私が腎機能障害のある化学療法患者の投与量を確認するときに用いている考え方です。記載がないCCrはすべてmL/min、sCrはmg/dLが単位です。
①レジメンの基となっている試験を確認する
非常に重要です。患者に実施されるレジメンのinclusion criteriaとexclusion criteriaを確認します。院内のレジメン申請書に記載されているレジメン申請の根拠となる文献を確認できればよいですが、レジメン申請書を簡単に確認できない施設(私の勤め先)の場合は、そのレジメンの根拠となっていそうな文献をPub Medで抽出し、内容を把握します。ガイドライン等を確認すれば、引用文献として紹介されている場合が多いので、必ず確認します。
例)オビヌツズマブ(ガザイバ®)
GADLIN study(リツキシマブ抵抗性の非ホジキンリンパ腫に対するオビヌツズマブ+ベンダムスチンとベンダムスチン単剤の比較試験)
exclusion criteria:CCr<40
[Lancet Oncol. 2016 Aug;17(8):1081-1093. ]
GB(オビヌツズマブ+ベンダムスチン)レジメンの場合、CCr≧40mL/minの場合は、100%投与量で実施できることが確認できます。
レジメンや試験によって腎機能による用量調節が異なる場合があります。
例)シスプラチン(ランダ®)
1. ESHAP
inclusion criteria:正常な腎機能を有する患者
腎機能障害が発現した場合の減量基準
1.5≦sCr≦2.0 シスプラチン25%減量
2.1≦sCr≦3.0 シスプラチン50%減量
sCr>3.0 シスプラチン投与なし
[J Clin Oncol. 1994 Jun;12(6):1169-76. ]
2. R-ESHAP(ESHAPとR-ESHAPの比較試験)
inclusion criteria:CCr≧60
Grade2の腎毒性(sCr>ULNx1.5-3)の場合、Grade1に改善するまでシスプラチン投与は控え(withheld)、その後25%減量
[Clin Lymphoma Myeloma. 2007 May;7(6):406-12. ]
3. DCF(食道がん術前化学療法)
50≦Ccr<60 20%減量
40≦Ccr<50 40%減量
Ccr<40 投与中止
[Cancer Sci. 2013 Nov;104(11):1455-60. ]
inclusion criteria:CCr≧60
[J Clin Oncol. 2000 Sep;18(17):3068-77.]
上記のように、レジメンが異なると、減量する基準も異なります。確立されたレジメンの患者条件を確認しておくことは重要です。
ESHAPのように、同一レジメンでも試験によっては、減量内容が異なる場合もあります。また、GCのように、論文を確認しただけでは、腎機能障害が発現した場合の対応について不明であるレジメンもあります。
②腎機能のよる減量指標について資料を確認する
原著論文を確認するだけで、減量基準を把握できればよいですが、上記のGCのように、腎機能低下患者への減量基準が不明な場合もあります。そのようなときは、腎機能低下患者に対する投与量について記載のある文献を確認します。
例)シスプラチン
Kintzel[Cancer Treat Rev 1995; 21:33.]
46≦Ccr≦60 25%減量
30≦Ccr≦45 50%減量
Ccr<30 他剤を考慮
Aronoff[Drug Prescribing in Renal Failure: Dosing Guidelines for Adults and Children, 5th ed]
10≦Ccr≦50 25%減量
Ccr<10 50%減量
上記2つの資料で紹介されている減量基準が大変有名です。多くの2次資料で引用文献としてみる機会が多いです。両者の減量基準についてはUP TO DATEに記載されています。
日本のガイドラインでは、がん薬物療法時の腎障害ガイドライン2016が有名でしょうか。日本腎臓病薬物療法学会の提案する減量が記載されており、Kintzelの減量基準と似ていますが、CCr<30mL/minの場合の投与量も記載されています。他の成書も似たような減量が多いです。GCの場合は、成書を基に投与量を相談しています。
腎機能低下患者(CCr=約45)に高用量MTXを投与する場面に出会いました。投与量が100%で処方されていました。減量するか確認したところ、「CCr<50mL/minなので、減量を考慮します」と回答がありました。成書では、CCr<60で減量基準が紹介されていますが[がん薬物療法時の腎障害ガイドライン2016]、医師からの回答はCCr<50mL/minでした。そのレジメンの基となった文献を何本か確認したところ、inclusion criteriaがsCr<1.5mg/dLもしくはCCr>50mL/min/1.73m2[Blood. 2015 Feb 26;125(9):1403-10. ][J Clin Oncol. 2013 Nov 1;31(31):3971-9. ]や、exclusion criteriaがCCr<50mL/min[Br J Haematol. 2017 Oct;179(2):246-255.]でした。その症例の場合は、1コース目はMTXは減量して投与、2コース目以降の投与量は、MTX血中濃度を確認して判断することになりました。
本患者に100%投与量で投与できるかの判断基準はsCr<1.5mg/dL、CCr≧50mL/min/1.73m2、CCr≧50mL/minでした。これは腎機能低下患者に対する減量基準を紹介している成書だけでは確認できません。やはり原著論文を確認しておくことが大切であることを改めて確認した症例でした。
R-GCVP
R-GCVP
リツキシマブ+ゲムシタビン+シクロホスファミド+ビンクリスチン+プレドニゾロン
適応:アントラサイクリン系が使用できないDLBCL
3週ごと6コース
リツキシマブ 375mg/m2 day1
ゲムシタビン day1,8
血液毒性がなければ順次増量
サイクル1 750mg/m2
サイクル2 875mg/m2
サイクル3以降 1000mg/m2
シクロホスファミド 750mg/m2 day1
ビンクリスチン 1.4mg/m2 最大2mg day1
プレドニゾロン 100mg/body day1-5 経口投与
(ペグフィルグラスチム 6mg day9)
phaseII:[J Clin Oncol. 2014 Feb 1;32(4):282-7.]
後ろ向き研究:[Br J Haematol. 2019 Sep;186(6):e191-e195.]
この前、アントラサイクリン系治療歴のあるDLBCL患者の症例に巡り合いました。また、心疾患の既往がありました。R-CHOPは何度も巡り合いましたが、R-GCVPは初めてです。ドキソルビシンをピラルビシンに置き換えたR-THP-COP(心毒性がR-CHOPと比較して少ない)でなく、ゲムシタビンに置き換えたレジメンでの治療でした。ドキソルビシンの累積上限(500mg/m2)は超えていませんでしたが、心疾患既往や、治療を6サイクル投与ということであればゲムシタビンに置き換えたほうがいいかもしれません。
FNリスクは20%を超えていませんが、phaseIIでは、持続型G-CSFが1次予防として使われています。6mgは海外承認用量です(日本のジーラスタ®は3.6mg)。
ゲムシタビンの用量を漸増するレジメンですので、現在の投与サイクル数に気を付けないといけませんね。また、ゲムシタビンを追加しているため、間質性肺炎などゲムシタビンで発現頻度が高めな副作用にも注意しなければなりません。
眼内リンパ腫に対する硝子体注射
眼内リンパ腫は珍しい疾患ですのであまり目にする機会がないかも知れません。眼への抗がん剤投与を考慮する疾患です。
治療は局所化学療法(眼)や全身化学療法、放射線療法を行います。全身化学療法は高用量メトトレキサートやR-MPV(リツキシマブ+メトトレキサート+プロカルバジン+ビンクリスチン)が選択されます。中枢神経浸潤予防のために髄腔内注射をする場合もあるでしょう。
局所化学療法
①MTX硝子体内注射
【スケジュール】
MTX400µg/0.1mLを投与するスケジュールです。報告により多少スケジュールは異なりますが、
MTX 400µg 週2回 最初の1ヵ月
MTX 400µg 週1回 次の1ヵ月
MTX 400µg 月1回 9ヵ月-1年
上記を30G1/2インチの針を用いて毛様体扁平部(pasrts plana)から投与
溶解液0.1mLに眼灌流液やデキサメタゾン注射液を用いる報告もある[Jpn J Ophthalmol. May-Jun 2008;52(3):167-174. ][Vol.61 No.6 2019眼内悪性リンパ腫の診断と治療]
【副作用】
MTX の硝子体腔内注射では結膜充血や角膜上皮障害など副作用がみられることがあり,多くは一過性であるが,重篤な角膜上皮障害を生じ,継続投与が困難となるケースがある[臨眼68(1):42-49,2014]
白内障(26例のうち73%)
角膜上皮症(26例のうち58%)
黄斑症(26例のうち42%)
硝子体内出血(26例のうち8%)
視力委縮(26例のうち4%)
無菌眼内炎(26例のうち4%)
不可逆的な視力喪失は見られなかった
[Ophthalmology. 2002 Sep;109(9):1709-16. ]
【その他】
好中球<1200、血小板<100,000、患者の状態不良で中止または延期[Arch Ophthalmol. 1997 Sep;115(9):1152-6.][Ophthalmology. 2002 Sep;109(9):1709-16.]
角膜上皮障害は週1回もしくは週2回投与で発生したが、注射頻度の低下により自然消失した[Jpn J Ophthalmol. May-Jun 2008;52(3):167-174. ]
少数の患者で糸状角膜炎が発現したが、局所葉酸投与(0.003%溶液)し、その後は注射の頻度を週1回に減らすことで対応[Bull Soc Belge Ophtalmol. 2001;(279):91-5.]
②リツキシマブ硝子体内注射
【スケジュール】
リツキシマブ 1mg/0.1mL 週1回 4週間
必要に応じて追加で実施
【副作用】
一過性の眼圧上昇
油脂様角膜後面沈着物を伴った眼内炎症
[Transl Vis Sci Technol. 2012 Oct 22;1(3):1.]
【その他】
緑内障もしくは高眼圧症患者は実施していない
[Transl Vis Sci Technol. 2012 Oct 22;1(3):1.]
MTXの報告はいくつかあり、高い有効性を示すためガイドラインでも推奨されていますが(推奨グレードC1)[脳腫瘍診療ガイドライン2019年版第2版]、リツキシマブの報告は数が少ないのが現状です。MTXは副作用の頻度も高いので、症状に応じで週2回から週1回にスケジュール変更したりすることの考慮が必要です。
塩酸プロカルバジンと食品
プロカルバジンは血液脳関門を突破することができる抗悪性腫瘍剤なので、脳腫瘍や悪性リンパ腫に用いられる薬剤です。食品との相互作用があることも知られています。
〇飲酒禁忌
添付文書では、アルコールが禁忌とされています。ジスルフィラム様作用により、アルコールに対する耐性が低下していまう可能性があります。アルコールに弱くなってしまうので、顔が赤くなりやすかったり、悪酔いしやすくなったりすることが考えられます。起こしうる薬剤として、プロカルバジンの他にセフメタゾールやメトロニダゾールが有名ですね。また、ジスルフィラムの商品名にちなみ、アンタビュース反応としても知られています。
〇チラミン含有食品
日本の添付文書には記載はありません。米国の添付文書には記載があります[MATULANE package insert]。MAO阻害作用による相互作用で血圧上昇や頭痛、動悸、嘔気等が懸念されます。プロカルバジン投与終了後2週間は注意しなければなりません。
各情報サイトに記載されている控える食品についてまとめてみました。※一部を抜粋。
①MATULANE添付文書
ワイン、ヨーグルト、チーズ、バナナ
②UP TO DATE
チーズ、ソーセージ、サラミ、ソラマメ、醤油等
③DynaMed
発酵食品、アンチョビ、キャビア、レバー、レーズン、バナナ、チョコレート、アボカド
④MicroMedex
アボカド[Severity:Major]、ビターオレンジ[Severity:Major]、チラミン含有食品[Severity:Moderate]
⑤今日の診療プレミアムWEB
チーズ、ヨーグルト、バナナ、ソーセージ、燻製品など
ワインはアルコールを含むので、禁忌ですね。
チーズ、ヨーグルト、バナナ、ソーセージ、アボカドは共通していますね。また、アボカドに関してはMicroMedexでSeverity:Majorになっているので、特に注意したほうがいいかもしれません。また、血圧などのモニタリングも重要です。
ただし、古い資料ではありますが、プロカルバジン投与時の食事制限は臨床上重要ではない[Cancer Nurs. 1980 Dec;3(6):451-7.]との報告もあります。こちらの文献に関しては全文を確認できていないので、内容の詳細は不明です。
患者指導の際には、化学療法の副作用の他に、食品との相互作用も指導してみてはいかがでしょうか。
腎不全患者に対する炭酸水素ナトリウム
腎不全患者に炭酸水素ナトリウムが処方されていることを見かけると思います。
慢性腎臓病患者では、腎機能低下が進むと、高Cl性の代謝性アシドーシスがみられます。また、末期腎不全では、Clが症状していなくともアシドーシスを呈することもあります[CKD診療ガイド(高血圧編)]。
慢性腎臓病患者のアシドーシスは死亡率[Nephrol Dial Transplant. 2009 Apr;24(4):1232-7. ][Am J Kidney Dis. 2013 Oct;62(4):670-8. ]やCKDの進行と関連しています[Am J Kidney Dis. 2009 Aug;54(2):270-7.]。
治療は炭酸水素ナトリウム1.5-3.0g.dayを投与し、血清重炭酸塩濃度を是正します。22mEq/L以上が目標となります[CKD診療ガイド(高血圧編)]。
Kidney Disease Improving Global Outcomes (KDIGO)ガイドライン2013では、血清重炭酸塩濃度を正常範囲(23〜 29 mEq / L)で維持し。通常投与量は0.5-1.0mEq/kg/dayとされています。
ちなみに、炭酸水素ナトリウム1gは12mEqのHCO3-と12mEqのNaを含みます[今日の治療指針2011別冊]。
もし、重炭酸塩の測定をしていない場合は、血清Naから血清Clを引いた値から確認してみることもいいと思います。
炭酸水素ナトリウムによる補正は,血清重炭酸イオン濃度 20mEq/L 以上を目標とし,これは血清ナトリウム-血清クロールでは概ね 32mEq/L 以上に相当します[日腎会誌 2015;57(5):858‒868.]。
炭酸水素ナトリウムは1g中にNaを12mEq含み、Na投与による血圧上昇が懸念されるかもしれませんが、CKD患者においては、血圧上昇との関連は否定的です[J Am Soc Nephrol. 2009 Sep;20(9):2075-84.][J Nephrol. 2019 Dec;32(6):989-1001.]。
CKD患者を見かけたら。アシドーシスのモニタリングもしてみるとよいでしょう。
ステロイド外用剤 指導記録
ステロイド外用剤指導の際の参考にどうぞ
□軟膏 □クリーム □ローション
ステロイド含有 □なし □あり→クラス: 塗布部位:
<患者指導>
・塗布量
□特に指示がない場合は1日2-3回塗布する
□1日の使用回数に指示がある場合はその回数塗布する
□1FTU(約0.5g)は両手2枚分塗布できる
□5gチューブを人差し指の第一関節まで出した量は0.2g程度
□10gチューブを人差し指の第一関節まで出した量は 0.3g程度
□25-50gチューブを人差し指の第一関節まで出した量は0.5g程度
□ローションの場合は1円玉の量で0.5g程度
□顔に塗布する量は手のひら2枚分(1FTU)
□成人の全身に塗布する量は両手のひら20個分程度(20FTU)
・塗布部位
□ステロイドの強さにより外用剤の塗布部位が決められている
・塗布方法
□チューブの細菌感染を予防するために、塗布前は手を洗う
□擦り込むようには塗布せず、覆うようにやさしく塗布する(炎症部位の上に塗布できないため)
□置いたティッシュに塗布部位をつけた時ティシュが軽くくっつく程度が塗る目安
□クリーム剤の場合は白い色が消える程度が塗る目安
□一般に塗布面積の広い薬剤から先に塗布する
例)ステロイド外用剤と保湿剤の併用では保湿剤を先に塗布し、その後ステロイド外用剤を湿疹等の病気の部分だけに塗布する
・ステロイド外用剤の副作用
□皮膚萎縮
□毛細血管拡張、ステロイド紅潮
□ステロイドざ瘡
□多毛